中小企業診断士の二次試験、H26年組織・人事における過去問の解答解説を行っていきます。
各予備校が提唱する〇〇〇メソッドは確かに、中小企業診断士試験テクニックとしては有効かもしれません。しかし、試験テクニックだけを学び資格を取得しただけでは、資格を活用することは不可能です。
筆者が中小企業診断士の二次試験を6回も受け、最終的にたどり着いた結論は、「中小企業診断士として」の解答を二次試験本番で発揮することでした。
「中小企業診断士としての」とは、何かを過去問の解説から感じていただけたのならば、あなたは合格する確率が高まっているはずです。試験テクニックだけでない、実務でも通用するための実力を磨いてきましょう。
設問と与件の解説をご覧になっていない方は、先にこちらをお読みください。
それでは、早速入っていきたいと思いますが、その前に、各設問と経営課題の抽出が前回までで完成しているので、そちらをマッピングしたものを先に見てみます。
過去~現在 | 現在~未来 | |
---|---|---|
経営課題 | 取引先の要望を超えるアイデアを提案できる体制の構築 | (1)研究開発力の強化、(2)必要な研究開発費の捻出 |
環境分析 | 与件 | 第1問 |
経営戦略 | 与件 | 与件 |
組織 | 第2問 | 第3問 |
人事 | 第4問 | 第5問 |
過去問の解説
第1問
設問
A社は、小規模ながら大学や企業の研究機関と共同開発した独創的な技術を武器に事業を展開しようとする研究開発型中小企業である。
わが国でも、近年、そうしたタイプの企業が増えつつあるが、その背景には、どのような経営環境の変化があると考えられるか。120字以内で答えよ。
- 文章フレーム
- 切り口
まず、フレームからみていきましょう。
変化は、(1)~、(2)~こと。
となります。後は、中身を埋めていけばよいこととなります。
文章フレームって何だっけ?そもそも知らないという方は、まずこちらをお読みください。
(1)と(2)入る切り口が何かを考えましょう。
分かりましたでしょうか。
そうです、本設問の経営課題をそのまま当てはめれば大丈夫ですね。
具体的には、以下になります。
(1)研究開発力の強化
(2)必要な研究開発費の捻出
あとは、適切な与件文を探してくることができれば、完成です。
与件
- 時間軸
- 該当する与件文
- 第5段落
- 第11段落
- 切り口(フレームワーク)の取り扱い
闇雲に与件を探しに行くのは非効率ですので、何を探しにけばよいのか目的をもって、与件文にあたることが大切です。そこで重要となるのは、(1)時間軸と(2)対応する経営課題、となります。
経営課題は先ほど挙げていますので問題ないかと思います。
それでは、時間軸は何だったでしょうか。
簡単ですよね。
答えは、
です。
与件から探しに行くと、第5段落と第11段落が該当しそうだと気づけます。
精密ガラス加工技術を必要とする製品分野は、技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短い。そのため、サプライヤーは、新しい技術や新しい製品を取引先に提案することができなければ取引を継続させていくことは難しい。
直接的に経営環境の変化が記載されていますね。
技術革新のスピードが速ので製品ライフサイクルが短い、だから、新たな提案ができないと取引継続が難しいというロジックになっていることがその具体的内容です。
とはいえ、A社のような売上も利益も少ない規模の小さな中小企業が研究開発型企業として生き残るためには、必要な研究開発費を捻出することがもうひとつの重要な経営課題である。レーザー用放電管の自主開発に取り組んだ時代のA社の売上高は1億円にも満たず、社員数も10名に過ぎなかった。そのような企業規模で新規事業のための多額の研究開発資金を捻出することは難しかった。A社が現在進めている新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている。研究開発型中小企業にとって、官公庁の助成金の獲得は極めて重要な資金調達の手段なのである。
経営環境が変化している部分はなにかという視点でみにいくと、
「A社が現在進めている新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている」となっています。
また、以前はというとその前文に「そのような企業規模で新規事業のための多額の研究開発費を捻出することは難しかった」となっています。
整理すると、官公庁の助成金の存在(以前はなかった)のおかげで研究開発費を捻出できていると読み替えられます。
専門の予備校などでは、中小企業診断士の一次試験で習った知識や切り口で当てはめながら考えろと教わるはずです。確かに間違いではないですが、フレームワークや一次試験の知識に頼りすぎてしまうと、ドツボにはまる可能性が大です。それは、自分が知っている内容で全てを考えてしまおうとの力が無意識に働いてしまい、その結果、出題者が求める解答とはかけ離れ成果物が出来上がってしまうことが往々にしてあるためです。
筆者もドツボにはまった一人です。
そこで重要となるのが、設問や与件から考えられる切り口でまず分けられないかという意識を持つことです。
今回で行けば、単純に(1)第5段落の取引先の要望、(2)第11段落の助成金、の内容の2つでまとめるとことです。
これが結局言い換えると、経営課題である(1)研究開発費の捻出、(2)研究開発力強化に収束していきます。
単純に整理すれば良いだけだったはずが、無理やり環境分析だから内部分析と外部分析に分けないといけないとか、3C分析にあてはまるはずだとか、といった方向に走ってしまうと、時間の無駄ですし、外し時のインパクトがでかすぎます。。。
もちろん、設問と与件だけでは整理しきれないときに、中小企業診断士の一次試験知識を活用することはとても大事です。順番を間違えると大変な惨事を招いてしまうことはお分かりいただけたのではないでしょうか。
切り口(フレームワーク)の取り扱いについて、もっと詳しく知りたいという方は、下記の本がおすすめです。
中小企業診断士の二次試験に直接関連する本ではありませんが、実務でも使える非常に参考となる書籍で、筆者のお気に入りです。
ここまでくれば、あとは内容をまとめるだけです。それでは、解答をみましょう。
解答
変化は、(1)技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短いので、新技術や製品を取引先に提案できなければ取引の継続が難しくなっていること、(2)官公庁の助成金の存在により必要な研究開発費を捻出しやくなり研究開発に特化しやすくなったこと、である。
文末の「である。」は必要ありませんが、今回の場合は文字数が余ったので入れてあります。この辺りは臨機応変に対応してください
与件の言葉をそのまま引用してまとめているだけです。これでいいのです。中小企業診断士の一次試験知識をかつようしなければならない設問(特に提案問題)も、もちろんありますが、与件の言葉だけで因果関係が説明できるのであれば、不純物(一次試験知識)を無理やりに入れる必要はありません。
解説
解答だけでも良いとは思いましたが、筆者の真心の半分はバファリンでできいるため、図解としてロジックツリーも載せておきます。
同じ内容で必要ない情報を載せるなといった冷めた視線ではなく、aerozol頑張っているなという温かい視線で見守っていただけると幸いです。
昔から筆者は褒められて伸びるタイプでした。不要な情報をのせてすみません。話を本線に戻します。
第2問
設問
A社は、創業期、大学や企業の研究機関に応じて製品を提供してきた。しかし、当時の製品の多くがA社の主力製品に育たなかったのは、精密加工技術を用いた取引先の製品自体のライフサイクルが短かったこと以外に、どのような理由が考えられるか。100字以内で答えよ。
- 文章フレーム
- 切り口
- 制約されている条件
理由は、(1)~、(2)~ため。
となります。簡単ですね。中身を考えていきましょう。
さぁ、シンキングタイムです。切り口は何が入るでしょうか。
分かりましたか。それでは、行きます。
主力製品が育たなかったポイントは、2つありましたよね。直接的表現で記載はありませんでしたが、ターニングポイントの2つによって、成長してきたと与件に書いてありました。裏を返すと、この2つを解決できなかった期間が主力製品が育たなかったと考えられます。
ということは、
(1)ターニングポイント1
(2)ターニングポイント2
が切り口になるだろうと推測できます。
与件もターニングポイントが記載されている与件を探しにけば大丈夫そうだなと考えられます。
精密加工技術を用いた取引先の製品自体のライフサイクルが短かったこと以外となっています。つまり、この内容を書いても得点は与えませんと出題者が明示してくれていますので、絶対に記載しないようにしてください。せっかく、与件の該当ポイントがわかっていたのにも関わらず、得点を獲得できないことほどもったいないことはありませんから。
該当与件
ターニングポイントの段落を探すと、第6、7、8、9段落が該当します。
- 第6段落
- 第7段落
- 第8段落
- 第9段落
小さな工場を借り、サラリーマン時代の人間関係を通じて、大学などの研究機関から頼まれる単発的な仕事をひとりだけでこなす体制でスタートした A 社も、取引先の要望を超えるアイデアを提案することによって存続と成長を実現してきたのである。その成長スピードは決して速いとはいえないが、精密ガラス加工技術の関連技術を広げながら、今日の研究開発型企業へと発展を遂げてきた。
はじめは、単発的な仕事をひとりでこなす体制だったようです。それが、現在では取引先の要望を超えるアイデアを提案してきたことが、A社が成長した要因と書かれています。
創業から 10 年余り、依頼に応じて開発・製造した製品の多くは、技術革新や代替品の登場によって2〜3年で注文がなくなり、なかなか主力製品に育たなかった。
主力製品に育たなかった理由として、技術革新や代替品の脅威が述べられています。しかし、設問の制約条件から、この内容は記載してはならないとありましたので、注意が必要です。
A 社にとって成長に向けた最初のターニング・ポイントは、レーザー用放電管の開発であった。大学や大手企業の研究機関から依頼を受けて開発・製造に取り組んできたそれまでの製品とは異なって、A 社社長のアイデアではじめて自社開発に着手したレーザー用放電管事業はひとつの柱となった。その後 10 年の時を経て、レーザー用放電管事業はレーザー装置そのものの製品化にもつながり、売上は大きく伸張することになる。
A社社長のアイデアによってレーザー用放電管事業がひつつの柱となって、製品化につながっていると書かれています。第6段落の内容とも一致するので、本段落と第6段落の内容をまとめて記載すればよさそうです。
もうひとつのターニング・ポイントは、レーザー用放電管開発と前後して、現在の主力製品となる理化学分析用試験管の OEM 生産を化学用分析機器メーカーから依頼されたことであった。もっとも、この事業がA社の利益に大きく貢献するようになったのは、5年ほど前からである。というのも、製造依頼があった当初、分析用試験管の市場規模はまだ小さく、生産量も少なかったし、製造プロセスの多くが手作業であったことに加えて外注した製造設備を使っていたために、良品率が40%以下と著しく低かったためである。その後、試験管の需要増に伴って受注量も増えてA社の売上は少しずつ伸張したが、良品率が低く利益増にはなかなか結びつかなかった。試験管市場の成長を確信していたA社社長は、そうした事態を打破するために製造設備の内製化を決意し、段階的に製造設備の改良・開発に取り組み始めた。着手から5年以上の年月がかかったものの製造設備の内製化を進めたことによって、製造プロセスの自動化を実現するなど量産体制を完成させた結果、良品率は60%程度まで改善した。その後、理化学分析用試験管の品質も向上し、よりコンパクトになったにもかかわらず、良品率60%前後を維持してきた。ここ数年、さらに高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げたこともあって高い製造技術が求められるようになっているが、良品率は90%を超えるまでに向上している。
線を引いた部分が、該当箇所となります。
一度まめてみると、
- 分析用試験管の市場規模はまだ小さい
- 生産量も少ない
- 製造プロセスの多くが手作業
- 外注した製造設備を使っていた
の4つが要因として挙げられます。
よっしゃ!これらを書けばいいんだなとなりそうですが、ちょっと待ってください。
まず、解答文字数が100字しかなく、切り口は2つなので、50文字で記載しなければいけません。50文字で4つの要素を入れようとすると、1要素約12文字となりますが、因果関係が成立する文章にしなければならなのに、12文字では到底書けません。ということは、出題者はこの4つからさらに直接的要因は何なのかを問うていると考えることができます。
もう少し与件文をみていくと、試験官の需要は増えて受注量は増加したが、利益は増えなかったと記載してあります。そして、製造プロセスと外注製造設備の内製化によって、良品率が高まったとなっていることから、本筋はこちらだと理解できます。
主力製品に育った(良品率が60%に向上した)直接的要因を改めてまとめておきます。
- 製造プロセスの多くが手作業
- 外注した製造設備を使っていた
後は、これを解答としてまとめましょう。
ちなみに、切り口をターニングポイント(1)と(2)としていましたが、与件を読んだことで具体的言葉に置き換えられます。
特に気にしなくても良いのですが、流れの方向性を掴むためには理解できると、さらに解答精度が高まります。
- レーザー装置事業
- OEM生産事業
ということは、今後強化していきたい事業は、残るもう1事業ではないかと仮説がたてられませんか。
どんな事業を行っていたか忘れたかは、第1段落をご覧ください。
解答
理由は、(1)単発的な仕事をこなす体制で取引先の要望をこえるアイデアを提案できなかった、(2)製造プロセスの多くが手作業で外注した製造設備を利用していたので良品率が著しく低く利益増につながらなかった、ため。
図解
第3問
設問
2度のターニング・ポイントを経て、A社は安定的成長を確保することができいるようになった。新しい事業の柱ができた結果、A社にとって組織管理上の新たな課題が生じた。それは、どのような課題であると考えられるか。100字以内で答えよ。
- 文章フレーム
- 切り口
- 研究開発力の強化
- 必要な研究開発費の捻出
- 制約されている条件
- 組織構造(ハード)
- 組織文化(ソフト)
課題は、(1)~、(2)~こと。
もう大丈夫ですよね。時間軸が現在~未来であるということは、経営課題が2つありました。これを切り口にしましょう。
組織的課題となっています。
切り口としては、先ほど挙げた通りですが、組織的課題と明確に記載されている場合は、中小企業診断士の一次試験知識も活用するとより精度が高まります。
組織ときたら、以下の知識を思い出せるようにしておけるよう覚えておいてください。
中小企業診断士の一次試験知識については、追々ご紹介していきます。
中小企業診断士の一次試験知識を思い出せなくても問題はありません。
該当与件
現在~未来の経営課題に対応しそうな組織の内容が書かれている段落を探しにくと、第10、11、2段落が該当します。
- 第10段落
- 事業が成長する前
- 技術や新製品、技術の問題が出たとき、顧問の大学教授や研究者からアドバイス
- 事業成長した後
- 工学社員を採用
- 社内に研究室に開設
- 大学院卒の博士号取得見込者を採用
- 第11段落
- 第2段落
- 組織全体
- 研究開発部門
- 生産部門
- 総務部門
これらのターニング・ポイントを経る中で、A社社長は、以前にも増して、研究開発力の強化なくして事業の成長も存続も望めないことを痛感するようになった。それまでも、社内で解決できない技術的な問題や、新製品や新規技術に関連する問題が生じた場合には、顧問を務める関連分野の専門家である大学教授や研究機関の研究者からアドバイスを受けてきた。工学博士号をもった社員を5年ほど前から採用し社内に研究室を開設したのも、研究開発力をより強化し、新たな事業分野を開拓するためである。その成果こそいまだ未知数であるが、精密ガラス加工技術を応用した新製品の芽が確実に育ちつつある。さらに、近年、新たに大学院卒の博士号取得見込者を採用し、研究開発力強化に積極的に取り組んでいる。
経営課題の一つである研究開発力強化に関する段落ですね。
段落内の文章が長いので整理してみると以下のようになります。
ここから、工学社員に関連する内容のなかで、研究開発力を高めるために組織的な課題が発生していると推測できます。
さらに、なぜ研究力の強化を行う必要があるのか。それは、新事業分野の開拓を意図してることもあわせてわかるはずです。
とはいえ、A社のような売上も利益も少ない規模の小さな中小企業が研究開発型企業として生き残るためには、必要な研究開発費を捻出することがもうひとつの重要な経営課題である。レーザー用放電管の自主開発に取り組んだ時代のA社の売上高は1億円にも満たず、社員数も10名に過ぎなかった。そのような企業規模で新規事業のための多額の研究開発資金を捻出することは難しかった。A社が現在進めている新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている。研究開発型中小企業にとって、官公庁の助成金の獲得は極めて重要な資金調達の手段なのである。
こちらはもう一つの課題である必要な研究開発費の捻出です。そのために、官公庁の助成金が必要と書いてあります。
助成金獲得のために、組織的課題が発生していると考えられます。新事業分野とは・・・
先ほど挙げた、理化学分析用試験管事業、レーザー装置事業ではないもう一つの事業です。
それは、ガラス管事業と判明します。そのために、工学博士号を持つ社員を採用しているのかなと推測も働きますよね。
取引先にも求められており、助成金獲得においても、新規技術や製品の開発が必要です。
しかし、事業が成長する以前は新製品や新規技術の問題が生じた場合にしか専門家を活用していません。事業成長後は、社内体制を構築しています。
そこで、社内の技術や知識とこれまで問題が生じたときに活用してきた専門家に協力をあおぎ、一から新製品や新規技術を開発できれば助成金の獲得につながるのではと考えられます。
俗にいう外部連携(中小企業診断士の一次試験知識を活用するのであれば、大学等と連携したプロジェクトチームの結成といった感じです)です。
また、参考ですが「ものづくり系の補助金や助成金」は先端的な製品や技術を開発しようとする(まだ開発されていない)内容に手厚いサポートをしています。
現在、A 社の組織は、生産、研究開発を中心にした機能別組織である。営業担当者は 1 名で、取引先との窓口業務にあたっている。研究開発部門には、研究室と開発室に計 6 名の社員が所属しており、工学博士号をもつ社員もいる。研究開発部門は、新製品開発や新技術開発のほか、製造装置の開発、レーザー装置の開発・販売を担当している。生産部門は、製造第 1 課、第 2 課、品質管理課の 3 つの課で構成されている。第 1 課は主に試験管製造を、第 2 課がガラス管など試験管以外の精密ガラス加工製品の製造を担当し、近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長を務めている。そして、人事・経理などを総務部が担当している。
まず、この段落を整理すると以下のようになります。
現在、A 社の組織は、生産、研究開発を中心にした機能別組織である。営業担当者は 1 名で、取引先との窓口業務にあたっている。
研究開発部門には、研究室と開発室に計 6 名の社員が所属しており、工学博士号をもつ社員もいる。研究開発部門は、新製品開発や新技術開発のほか、製造装置の開発、レーザー装置の開発・販売を担当している。
生産部門は、製造第 1 課、第 2 課、品質管理課の 3 つの課で構成されている。第 1 課は主に試験管製造を、第 2 課がガラス管など試験管以外の精密ガラス加工製品の製造を担当し、近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長を務めている。
そして、人事・経理などを総務部が担当している。
段落全体としては組織構造の内容について、記載されています。それを前提として工学社員に関する内容の部分に注目しましょう。
すると、研究開発部門について触れてほしいのだなと理解できます。
後は、研究開発力を強化するために問題となりそうな部分を見ていくと、販売業務を行っているという記述に違和感を覚えませんか。
研究開発力を強化したいなら、販売業務は別のところに移すべきだと考えられます。
解答
課題は、新事業分野を開拓するため(1)研究開発部門の販売業務を営業部に移管し研究開発に専念させ研究開発力の強化を図る、(2)外部専門家とプロジェクトチームを結成し新技術開発を行い官公庁助成金を獲得する、こと。
図解
第4問
設問
A社の主力製品である試験管の良品率は、製造設備を内製化した後、60%まで改善したが、その後しばらく大幅な改善はみられず横ばいで推移した。ところが近年、良品率が60%から90%へと大幅に改善している。その要因として、どのようなことが考えられるか。100字以内で答えよ。
- 文章フレーム
- 切り口
- 制約されている条件
要因は、(1)~、(2)~こと。
設問の段階では、切り口が見当たりませんので、とりあえずそのまま進みましょう。
60%から90%へ改善した要因しか、記載してはいけません。つまり、60%まで改善した内容を記載したとしても得点とならないと出題者は教えてくれています。
該当与件
該当する段落は、第9、2、3、4段落となります。
- 第9段落
- 良品率40%以下
- 良品率40~60%以下
- 良品率90%越え
- 高精度な分析ができるようになったこと
- 高い製造技術をみにつけられたこと
- 第2段落
- 第3段落
- 第4段落
もうひとつのターニング・ポイントは、レーザー用放電管開発と前後して、現在の主力製品となる理化学分析用試験管の OEM 生産を化学用分析機器メーカーから依頼されたことであった。もっとも、この事業がA社の利益に大きく貢献するようになったのは、5年ほど前からである。というのも、製造依頼があった当初、分析用試験管の市場規模はまだ小さく、生産量も少なかったし、製造プロセスの多くが手作業であったことに加えて外注した製造設備を使っていたために、良品率が40%以下と著しく低かったためである。その後、試験管の需要増に伴って受注量も増えてA社の売上は少しずつ伸張したが、良品率が低く利益増にはなかなか結びつかなかった。試験管市場の成長を確信していたA社社長は、そうした事態を打破するために製造設備の内製化を決意し、段階的に製造設備の改良・開発に取り組み始めた。着手から5年以上の年月がかかったものの製造設備の内製化を進めたことによって、製造プロセスの自動化を実現するなど量産体制を完成させた結果、良品率は60%程度まで改善した。その後、理化学分析用試験管の品質も向上し、よりコンパクトになったにもかかわらず、良品率60%前後を維持してきた。ここ数年、さらに高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げたこともあって高い製造技術が求められるようになっているが、良品率は90%を超えるまでに向上している。
毎度同じですが、まずは整理しましょう。
製造依頼があった当初、分析用試験管の市場規模はまだ小さく、生産量も少なかったし、製造プロセスの多くが手作業であったことに加えて外注した製造設備を使っていたために、良品率が40%以下と著しく低かったためである。の後、試験管の需要増に伴って受注量も増えてA社の売上は少しずつ伸張したが、良品率が低く利益増にはなかなか結びつかなかった
試験管市場の成長を確信していたA社社長は、そうした事態を打破するために製造設備の内製化を決意し、段階的に製造設備の改良・開発に取り組み始めた。着手から5年以上の年月がかかったものの製造設備の内製化を進めたことによって、製造プロセスの自動化を実現するなど量産体制を完成させた結果、良品率は60%程度まで改善した。その後、理化学分析用試験管の品質も向上し、よりコンパクトになったにもかかわらず、良品率60%前後を維持してきた。
ここ数年、さらに高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げたこともあって高い製造技術が求められるようになっているが、良品率は90%を超えるまでに向上している。
となります。
60%になった要因は、製造プロセスの自動化と設備の内製化でした。
そこから、90%越えになった際の要因は、高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げたこともあって高い製造技術が求められるに対応することができたことです。
なぜ、そう言えるかというと90%越えの文章の一番前についている、「さらに」です。これは、国語的には「添加」と呼ばれ、簡単には足し算のプラスをイメージしくてください。
この接続語さえわかれば、90%を超えた要因が上記だと理解できます。
「添加」の意味が怪しかった人は、中小企業診断士の二次試験に求められる国語力についてご紹介していますので、ご覧ください。
現在、A 社の組織は、生産、研究開発を中心にした機能別組織である。営業担当者は 1 名で、取引先との窓口業務にあたっている。研究開発部門には、研究室と開発室に計 6 名の社員が所属しており、工学博士号をもつ社員もいる。研究開発部門は、新製品開発や新技術開発のほか、製造装置の開発、レーザー装置の開発・販売を担当している。生産部門は、製造第 1 課、第 2 課、品質管理課の 3 つの課で構成されている。第 1 課は主に試験管製造を、第 2 課がガラス管など試験管以外の精密ガラス加工製品の製造を担当し、近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長を務めている。そして、人事・経理などを総務部が担当している。
この段落は第3問で使いましたが、使っていない部分がありますよね。
<そうです、生産部門に関しての記述です。
注目すべきは、設問にもあった近年という環境変化を表している付近です。
中途採用者が生産部門のそれぞれの課長を務めているそうです。このように書かれるということは、何か活用できそうだと感じます。
先ほどの90%越えの要因のどちらが当てはまりそうか考えると、生産部門なので高い製造技術を中途採用者の課長によってみにつけられたことだと導けます。
A 社が開発・製造している製品に関連する精密ガラス加工技術とは、われわれが通常イメージするようなグラスや置物、工芸品を製造する職人的な工芸技術ではなく、絶縁性、透過性、外圧の統制などガラスの持つ特性を最大限活用する高度な加工技術である。かつてテレビに使われていたブラウン管や真空管、放電管なども、精密ガラス加工技術をベースにした関連製品である。
この段落は、技術の内容が記載しています。
第2段落で挙げた、高い製造技術の具体的内容として、ガラスの持つ特性を最大限活用する高度な加工技術をみにつけられたのではと関連付けられると完璧です。
真空成形加工、特殊ランプ加工、ガス加工、延伸加工などの精密ガラス加工技術を活用した A 社が取り扱う製品の開発・製造には、ガラス加工技術の知識や熟練技能だけでなく、物理学や化学に関する専門的な知識も不可欠である。A 社社長が精密ガラス加工に必要な基礎技術や知識を習得し会社を立ち上げることができたのは、高校卒業後に 10 年ほど中堅ガラス加工メーカーに勤務し、そこで大手電機メーカーの研究所や大学の研究機関との共同開発のプロジェクトに深くかかわってきたからである。その時に培った人間関係や研究開発に関する技術や経験が、創業から今日に至るまで、A 社の経営基盤を成している。
こちらは、もう一つの高精度な分析に関連する内容だと予想できます。
それは、工学博士号を持つ社員のことだというのは判断できると思います。その上で関連しそうなのは、もうお分かりですね。
物理学や化学に関する専門的な知識も不可欠の部分です。これを工学博士号を持つ社員によって強化したと言えそうです。
解答
要因は、(1)工学博士号を持つ社員の専門的知識の活用で高精度の分析が可能な製品へ進化したこと、(2)課長である中途採用が持つガラスが持つ特性を最大限活用する生産管理ノウハウ活用で高い製造技術を有したこと。
図解
第5問
設問
A社は、若干名の博士号取得者や博士号取得見込者を採用している。採用した高度な専門知識をもつ人材を長期的に勤務させていくためには、どのような管理施策をとるべきか。中小企業診断士として100字以内で助言せよ。
- 文章フレーム
- 切り口
- モラール
- 能力
施策は、(1)~、(2)~こと。
先にネタバレとなりますが、与件にも設問にも切り口らしきものはみつかりません。
その際に活用するのが中小企業診断士の一次試験知識ですが、今回の場合は設問マッピングから人事の項目にあてはまります。具体的な内容は以下の通りです。
該当与件
該当箇所は何度も登場していますが、第10段落です。工学博士号社員は、研究開発力を高めるためでしたよね。
これらのターニング・ポイントを経る中で、A社社長は、以前にも増して、研究開発力の強化なくして事業の成長も存続も望めないことを痛感するようになった。それまでも、社内で解決できない技術的な問題や、新製品や新規技術に関連する問題が生じた場合には、顧問を務める関連分野の専門家である大学教授や研究機関の研究者からアドバイスを受けてきた。工学博士号をもった社員を5年ほど前から採用し社内に研究室を開設したのも、研究開発力をより強化し、新たな事業分野を開拓するためである。その成果こそいまだ未知数であるが、精密ガラス加工技術を応用した新製品の芽が確実に育ちつつある。さらに、近年、新たに大学院卒の博士号取得見込者を採用し、研究開発力強化に積極的に取り組んでいる。
第3問で、研究開発以外の販売業務は営業に移管したため、開発部門は研究に専念できる状態になっています。
後は、人事の面でさらに強化していくための提案をできればOKです。
未来に向けての提案問題については、基本的に一次試験知識を活用しながら解答を構成していく必要があります。
先ほどもお伝えしましたが、必要な中小企業診断士の一次試験知識については、追々ご紹介していきますので、今回はこんな解答もあるのだと理解してもらえれば大丈夫です。また、提案問題はある程度解答内容に対して、幅を持たしていると思われます。
ただし、重要なことは、あくまで経営課題を解決するための提案でなければ、どんな素晴らしい内容であっても一点にもなりません。
解答
とるべき施策は(1)従業員のキャリアプランを考慮した長期的な教育計画を策定し能力の向上を図ること、(2)新製品や技術開発に関する提案制度や表彰制度、人事考課制度を導入しモラールの向上を図ること、である。
図解
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